棗坂(なつめざか)猫物語

猫目線の長編小説

2-4章


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シーズン2ー 4章

 そして翌朝、その日はカオルの仕事が休みで、時間がたっぷりあったから、私はヨシダさんのお家の屋根で、ショウ君から現在の世界情勢について、詳しく教えてもらった。(今、世の中では大変な事が起こっているんだ)そう言うと、ショウ君は私をいつもの窓辺から、隣の部屋のベランダに誘導した。ヨシダさんのベランダには丁度私が座れるくらいの幅の柵が付いていて、そこからは、今はもう大人になって別の場所で一人暮らししているそこのお兄ちゃんが昔使っていた子ども部屋が見える。ショウ君は、窓辺に置かれた机の上に上がって、薄いレースのカーテンを前足で少し開いて、壁に貼り付けてある世界地図をガラス越しに私に見せながらこう言った。(これが、僕達の住む地球を平らにした絵で、この真ん中の小さいのが、ここ、日本という国でね)(へぇ、随分小さいのね。じゃあ、この日本というのは、棗坂の一部なの?)(違うよ、ケイト。その逆さ。棗坂は日本の中のほんの狭いエリア、この地図上では、髭の先で付けた点よりも小さい範囲なんだよ)ショウ君の説明に私は驚いた。えー、そうなの?私達って、そんな狭い範囲で暮らしているのね…というか、私達の知らない世界はものすごーく広いのね。(…で、今問題になっているのは、この地図ではここ)ショウ君は、様々な色で細かく塗り分けられたエリアに視線を向けた。(ここに、こっちの大きな国が攻め込んだんだ)地図の上の方の大きな赤色の塊を、今度は尻尾で指しながら、ショウ君は話し続けた。(この辺りの小さな国はずっと昔から、この大きな国の脅威に曝されているんだ。この水色の国もそう。 以前は一つの国ということになってたけど 、今から二十年以上前に独立した。だけど、この大きな国は、それ以降もずっとこの小さい国を取り戻したいと思っていた。それで今回、この小さな国が他の小さな国の集会の仲間に入ろうとしたら、物凄く怒って、ミサイル攻撃を始めたんだよ)(えー、こんなに沢山自分の縄張りを持ってるんだから、こんな小っちゃい所まで欲しがらなくてもいいじゃないの?)(そう思うだろう?だけど、現実は色々複雑なんだ)ショウ君は優しく私をなだめながら話を続けた。(この国は見ての通り巨大国家だけど、地図の上の方は物凄く寒くて、人が住めそうな場所は実はあまり多くない。冬には海も凍ってしまうしね)(ふぅん。無駄に広いってわけね)(だけど、一方のこの小さい方の国は、色々な国に繋がる交通の要所でもある。特に一年中凍らない港の存在が、この大きな国には、とても魅力的なんだ)(何で凍らない海が必要なの?)私は熱心な生徒のようにショウ君に質問した。(それは、沢山の物を運ぶため。僕達の身の回りの物、例えばこの家を作るための材料とか、キャットフードの元になる魚とか、殆どの物が、海を渡って外国から持ち込まれているんだ。陸の上を車で運ぶよりも、海の上を船で運ぶ方が断然確実だし効率が良いんだ)(そういうものなの…)私にはイマイチピンと来ない話だった。だって私は今まで一度も、本物の海を見たことがないんだもの。(それに、もう一つ凍らない海が必要な理由。それは、いつでも敵に攻めていくためだ)(…)私はしばらく黙って考え込んだ。そもそも、人間の敵って何だろう?人間は、こんな立派な家を作って、美味しいご馳走を食べて、寒い時には暖かい服を着るし、寒くなったらすぐに涼しい服に着替えられる。こんなに器用に便利な生活を手に入れているっていうのに、この上何が望みで、誰と戦うって言うのかしら?私の疑問にショウ君はすぐに的確な答えをくれた。(人間の敵は人間だ。そして、僕達の住むこの国は、この地図の中の、とても恵まれた生活をしている一部の場所に過ぎないんだ)ショウ君は、少し考えてから、今度はベランダの壁の隅に掛けてある、ショウ君パパのガーデニング用の手袋を見てこう言った。(例えば、その手袋の10本の指が地球上の人間全体だとしたら…)私は息をのんでショウ君の話に聞き入った。(豊かな生活を送れているのは、その右手の親指分くらいの人だけなんだ)(えっ?そんなに少ないの?)チョッピリ意外。(じゃあ、他の9本分の人達は?)(まあまあな人が 6本、結構大変な人達が 2本。そして、左手の親指位の割合の人は、きれいな飲み水を手に入れることも難しいような暮らしをしているらしいんだ)それは、猫の中にも野良と家猫じゃあ格差があるけど…。でも、人間はこんなに器用で頭が良いはずなのに…。(とにかく、皆が豊かなわけではない。そして、この豊かな右手の親指の人達も、自分達の暮らしが豊かになったら、もっともっとと欲が出てくるし、それより貧しい国の中には、武器を使ってもっと弱いところの物を取り上げてでも豊かになろうとする国もある)(他の人に分けてあげよう、とかは絶対考えないのね…)私は、不意に、お兄ちゃんの事を思い出した。お兄ちゃんは、自分がお腹が空いてる時でも、もっとお腹を空かせた野良猫を見つけたら、すぐにナガサワさんのお庭に連れて行って、自分よりも先にその猫にごはんを譲ってたっけ…。それに比べたら私なんて、自分は家猫としての不動の地位を確保してるにも関わらず、庭に来た他の猫をすごい剣幕で追い払うのよね…。(それは仕方ないよ、猫の本能だもの)私の思いを察したショウ君は、優しくそう言ってくれた。(皆が豊かだったら、争いは起きないのかしら?)私は、今度はトヨダさんの家の、ハッピーとチャチャやコトラの事を思い出した。あの家では、トヨダさんの奧さんの美味しいごはんをもらって、犬も猫も仲良く幸せに暮らしてる。チャチャもコトラもテーブルの上にお魚を乗せたままにしてても上って食べたりはしないって、この前トヨダさんはカオルに話してたっけ。豊かな暮らしは動物にも心の余裕を与えるのかしら。…でも、あそこの犬と猫は、猫が野良の頃から仲良しだったし、そう言えば私は、家猫歴はチャチャやコトラより長いけど、テーブルの上のお魚に見て見ぬふりは到底できない…。(人間の所有欲や独占欲、それもある程度は本能だから、仕方ないとは思う。だけど、彼等は頭が良すぎるせいか、そこに限度というものがない。つまり、何事もやり過ぎるんだ。ミサイルとか戦車を使って、徹底的に相手をやっつける。僕達猫は、どんなに喧嘩しても相手を殺すまでには至らないけど…)(人間って、一周回って大バカだわ)私は、昨日テレビで見た酷い光景を思い出してそう言った。(確かに、ケイトの言うとおりかもしれない)ショウ君も、私と同じ映像を思い出したように、深刻な目をしてそう言った。(賢いはずの人間が、何故そんなバカになっちゃうのかしら?)真面目な生徒の私に、ショウ君は控え目な態度でこう言った。(これは僕だけの見解かもしれないけど…、きっと、人間の使う言葉、これがくせ者なんだと思うんだ)(え?言葉…?)意外な意見だった。(言葉を沢山持つということは、物事の本質を曖昧にするということだ)ショウ君は、いつになく険しい目をして話を続けた。(国同士が戦って大量に人を殺すことを『戦争』と言う。そして、その戦争には、『大義名分』というものが存在するんだ)(大義名分?)始めて聞く言葉だわ。(大量に人を殺すことを正当化する理由だよ)(そんな物があるの?)私はびっくりしてそう言った。(対立する二つの勢力には、必ずそれぞれの正義が存在する。どちらも自分達が正しいと言い張るんだ)ショウ君は言葉を続けた。(先に自分がその土地や権利を所有していた、と互いに主張することが、ほぼ全ての争いの元なんだ)ああ、それなら何となく分かるわ。私は、フネが私のテリトリーに入ったら当然のように怒って追い払ったけど、そう言えば、最初、私がここに来た時、サビコが私に同じ事を言ってきた時、『このヒト何言ってるのかしら?』って思っもの。その後も出会う度に何度もバトルになったけど、私のパンチ力に屈して、サビコは我が家の庭には断りなく入り込まないようになったわ。だけど、それがつまり、「大義名分」ってことなの?私の心の声に答えるようにショウ君は(猫の場合は、やるとしてもその程度だろ?でも、人間は、壊滅的に相手をやっつける。それもお互いの『正義』の名の下に)ショウ君の話を聞いていると、どうもその「正義」というのが、やっぱりくせ者ね。

(人間は、綺麗な言葉で本質をすり替える。『民族の解放のため』というのが、今回の大きな国の指導者の掲げる正義みたいだ)

ショウ君はフサフサの尻尾を揺らしながらそう言った。 私は、再び、あの浮腫んだ狼顔の男のことを思い出した。(でも、そんなに領土を取り戻したかったら、自分で戦えば良いのに)私は、その時、同時に全く別のことも思い出した。それは、前に一緒に住んでたおばさんの夢の中に度々現れた兵隊さんのこと。あの人は、戦争に行って、そのまま帰って来れなくなったんだと、私、何となく分かってた。あの人は、どう考えても自分から人を殺せるような人ではなかったわ。なぜなら、とても優しい目をしていたから。 優しい人が、誰かが勝手に始めた戦いの犠牲になる。それが、戦争。(そう。そして、今回起こっていることは、戦争よりももっと酷い。大きい国からの徹底的な攻撃は、今、この瞬間も続いているんだ)ショウ君は、眩しそうに目を細めながら、遠くの空に目をやった。どこかのお庭の梅の木の花びらが数枚、風に乗って私の鼻先をかすめていった。 私達のいるここ日本に、世界のどこかで起こっていることとはまるで無関係みたいに、もうすぐ春が訪れようとしていた。


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2-3章


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2-3章

(お兄ちゃん、お帰りなさい)
 私は、お兄ちゃんに鼻チューしようと近づいたけど、お兄ちゃんの鼻には、またしても生々しい爪痕が刻まれていた。
(やだ、お兄ちゃん、また怪我してる…)
 私は、鼻チューするのをやめて、少し後ずさった。こういう傷には要注意。傷から病気がうつることはとても多い。
(お前、元気そうだな。それに、その子とも仲良くしてくれてるみたいで、良かった)
お兄ちゃんは、少し疲れた声でフネと一緒にいる私にそう言いながら、チラッと後ろの若い雌を見た。
(今度はこの子のことも、よろしく頼む)
お兄ちゃんにそう言われて、私は改めてその新しい若い雌を見た。その雌猫は、フネよりは少し大きいけどやや短足で、黒と薄茶の混じった、微妙な色味の長めの毛に全身を覆われていた。この時期だし微妙に長毛だし、だけど、それにしてもこのモフモフ加減は…。
(お兄ちゃん、その子…妊娠してるわね)
私は、地面を擦りそうなその雌猫のお腹の辺りに目をやってそう言った。
(ケイト、お前、よく分かるな)
お兄ちゃんは、猫にしては細い目を見開いて、驚いたようにそう言った。
(そのお腹見れば、猫なら誰だって分かるわよ。…それって…、お兄ちゃんの…子?)
(ああ、…まあ、そうあって欲しいのはやまやまだが、…分からないだろう?俺達、猫の場合…)
(まっ、まあ…、そうね。…確かに…)
 私達の、何となく歯切れの悪い会話を聞きながら、その雌は罰が悪そうな面持ちでその場に佇んでいた。
(とにかく、後は頼んだ)
そう言うと、お兄ちゃんはまたスーッと、ナガサワさんとうちのお庭との境目にある茂みの奥に消えて行った。
 何よ、お兄ちゃんったら。久しぶりに会えたと思ったら、あっと言う間にいなくなっちゃって。それに、こんな身重の猫を、一体私にどうしろって言うのよ。
そうこうしていたら、カオルがおやつの入った缶を振りながら私を呼んだ。
「ケイト、早く帰ってらっしゃい!ケイトのせいで、私、遅刻しそうだわ!」
カオルは掃き出し窓の出入り口に立って、甲高い声で私に向かってそう叫んでいる。
(私、これからお仕事なの。フネちゃん、悪いけど、後はよろしくね)
私は、その妊婦の猫に軽く視線を投げかけただけで、後はフネに丸投げして、そのままお家に走って帰った。

(えっ、じゃあ、その妊婦のお腹の子どもは、ケイトの甥や姪、って可能性もあるんだ?)
お店に着いて、今朝の出来事を皆に話すと、カーティスは、野次馬根性たっぷりにそう言った。
(まあね。でも、お兄ちゃんも言ってたけど、それって本当のところは誰にも分かんないじゃない?)
(まあ、そうだよね。でも、それ言いだしたら、結局、人間だって一緒だけどね)
エリックが大きく伸びをしながらそう言った。
(でも、いいなぁ。お母さんになるって、どんな気持ちかしら?)
明かり取りの窓辺から、サリナもこの話に入ってきた。
(だけど、野良の子育てって、結構キツいんじゃない?)
ジャニスは、昔の事を思い出すかのように遠くを見ながらそう言った。
(その子が子どもを産んで、そのうちフネちゃんも大人になって子どもを産んだら、ケイトの家の周りは子猫が一杯増えるね)
ルチアーノが楽しそうに言った。
(そうなっても、色々面倒なことが起きなければいいけれど…)
オルガは、大人っぽい感想を述べた。
 私達猫が、そんなローカルな話題に花を咲かせていると、その日の夕方、ノザワさんがいつになく険しい面持ちで店に現れた。
「遂に、ロシアがウクライナに攻撃を開始したようですね」
ノザワさんは、深い皺を眉間に刻んで、カウンター越しにマスターにそう言った。
「とうとう始まってしまいましたね」
マスターも深刻な顔をしてる。何の話なのか、その時は全く分からなかったけど、何だかただ事ではない空気を、私達は察知した。

 その夜、私はお家のテレビで二人の会話の意味を理解した。
 大きな爆音とともに夜空が一瞬真っ赤になり沢山の建物が一気に粉々に砕け散っていく。焼け焦げた瓦礫が積み重なり、頭から血を流した人が運ばれていく風景。近くでは子どもが泣き叫ぶ声が聞こえる。
 また、しばらくすると、浮腫んだ狼のような顔をした金色の髪の毛の男が、怖い顔で何か話している映像が浮かんだ。私のこれまでの経験上、この手の顔の人は恐らくは日本人じゃないわね。私は文字が読めないから、字幕を読んで外国の人の話す言葉を理解することは出来ないけど、その人が何か途方もなく怖いことをしでかしているというのは、よく分かった。なぜって、その人の周りにはどす黒い邪気が渦巻いていたし、その人の目自体が怒りと恐怖に満ちていたから。
 自分から恐ろしいことを始めておいて、途中から恐怖を感じる、というのは人間だけの特徴。
「酷いことになってるわ」
次々テレビ画面に写し出される壊れた家の風景を見ながら、カオルも昼間のノザワさんやマスターと同じように深刻そうに、一人そう呟いた。
 そして、カオルはスマホを手に取って、何かを調べ始めた。カフェのお客さんもそうだけど、人間は、一日の中で、この薄くて小さい板を眺めている時間が物凄く長い。
「うそ?何これ…。こんなこと、ホントに起こるの…?」
何か、動く映像を見ながら、カオルは一人でそう呟いた。この、スマホを見ながら独り言を言う事が、カオルはふだんからとても多い。これをやり始めると、きりがないから、私は食後のオヤツのおねだりを諦めて、腕を組み直してマッタリモードに入ろうとした。
 すると不意に
「見て、ケイト、これがウクライナの猫よ」
と、カオルが私の目の前にスマホを差し出した。するとその画面には、カラフルなドレスを着て花の冠を被った白猫が映っていた。
(えっ、何、この子?なんてカワイイの?!)
 思わず叫びたくなるくらい、カワイイ猫の写真に私は驚いた。普段、この界隈とお店の猫にしか会っていないせいか、私は成猫の中では自分が一番可愛いと思い込んでいたとこがあったけど。…いやいや、この子には負けたわ。愛くるしさが半端ないし、それに、こんな鬱陶しい装飾を難なく身につけていられるこの淑やかさ。猫と言うよりは、まるで人間の女の子みたいにお行儀良く、そのカワイイ「ウクライナの猫」は写真に収まっていた。私もそうだから分かるけど、この顔は、自分がカワイイとうい事を知り尽くした顔よ。どんな表情でどの角度から写真に撮られるのが良いか、この猫ちゃんは日々研究しているに違いないわ。
 それに、この何とも言えない品の良さ。私の周りの猫で気品ある猫と言えば、真っ先にショウ君を、次いでオルガを思い出すけど、このウクライナの猫ちゃんは、気品と可愛らしさを兼ね備えているの。
(近くにいたら、絶対お友達になりたいタイプだわ)
私はそう呟いた。
「民族衣装を着てるんだって。ホントに可愛いわね」
カオルは、珍しく私のテレパシーをよんだかのようなリアクションを返してきた。
(民族衣装?それって私も着られるのかしら?)
「ケイトも着物でも着てみる?なんて、あなたはこんなにお利口に服を着たりは絶対しないでしようね」
カオルは私と会話しているかのように独り言を言った。
「それにしてもこの猫ちゃん、今頃どうなっているのかしら…」
カオルは一瞬緩んだ表情を再び暗くして、そう言いながらため息をついた。
 それってどういうこと?カオルの見ているテレビとスマホの画面は何か関連があるのかしら?

 


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2-2章


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2ー 2章


 それから数日後、カオルとご近所さんが、会う度に長々とした挨拶を交わしながらペコペコ頭を下げ合う季節がやって来た。確か、去年も本格的に寒くなるこの時期に、こんな感じの事があったわ。皆、お互いに「おめでとうございます」と言い合っている。だけど、誰も「ありがとうございます」とは言わないの。変ねぇ、私の知る限り、確かこの二つの言葉はセットで使われるはずよ。
 そして、そんなおめでとう合戦にも皆がそろそろ飽きた頃、私は久しぶりに、お庭でお兄ちゃんに会った。
(わー、お兄ちゃん。元気だった~?)
お兄ちゃんは、基本ナガサワさんのお庭がホームだけど、そこはやっぱり野良の雄だから、毎シーズンあちこちに遠征を繰り返している。それに、マリエに出勤し始めて以来、私は朝しか外に出られないから、お兄ちゃんに会う機会はめっきり少なくなってたの。
 しばらく会わないうちに、お兄ちゃん、チョッピリ老けたわ。それに、顔だの後ろ足だの、あちこち怪我してて、痛々しい。
(お兄ちゃん、大丈夫?)
まだ生々しい傷跡の残る後ろ足を見て、私がそう言うと
(このくらい平気さ。それより、そっちはどうだ?店の方は順調か?)
と、お兄ちゃんは私より一回り大きくて茶色味の強い、いわゆるキジトラシロの体をゆっくりと丸めながらそう言った。
(ええ。お陰様で、すこぶる順調よ)
私達がそんなやり取りをしていると、お兄ちゃんの後ろの茂みから、若い白黒の雌猫が現れた。
(あら、お兄ちゃん、そのヒト…)
頭に黒い帽子を被ったような、ちょっと面白柄のその子は、恥ずかしそうにお兄ちゃんの後ろに隠れた。私に何の挨拶もないから、ちょっと意地悪な気分で私はお兄ちゃんに
(新しい彼女さん?)
と尋ねたら
(この子はまだ、この秋生まれたばかりの子猫だよ。親と生き別れて困ってたから、ここに連れて来てやったんだ)
と、お兄ちゃんは、少しだけムッとしたようにそう答えた。
 全く、お兄ちゃんはお人好し…と言うか、お猫良し。困ってる猫を見ると、すぐにここに連れて来る。私もお兄ちゃんのお陰でカオルに出会えて今の生活があるから、まあ、偉そうな事は言えないんだけど…。それにしても、物事には限度ってものがあるでしょうに…。いくらナガサワさんが面倒見が良いからって、多い時には一度に七匹もの行き場のない野良を連れて来て…。結局、ナガサワさんに気を遣って、自分は他の餌場を探しに旅に出ては、先住猫に襲われて痛い目を見る羽目になる。
 性格って、同じ兄妹でもどうしてこんなにも違うのかしら?お兄ちゃんには、私のような自分への労りがちっともない。
(確かに可哀相な猫は沢山いるけど、そんなことしてたらきりがないわよ)
と、自分でもちょっと冷たいなぁ、と思いながら、私はお兄ちゃんにそう言った。そして、結局、その黒頭巾の若い雌には、一言も声をかけてあげなかった。
 それからしばらくして、お兄ちゃんはまた旅に出た。お兄ちゃんが連れて来た若い雄の多くは、お兄ちゃんと同じようにしばらくしたらよそに移って行くけど、今度のこの黒頭巾ちゃんは雌だし、この先どうするつもりかしら?ナガサワさんのお庭に居る分にはいいけど、ちょっとでも私のテリトリーに入ってきたら、即、お行儀を教えてあげなくっちゃね。何だかがめつく思えるかもしれないけど、家の中と違って、外の世界ではこの縄張り意識は物凄く大切。…っと、そう思ってる間に、その子は、早くも我が家のお庭に入ろうとしていた。
(ちょっと、あなた!待ちなさい!)
私はダッシュで彼女を追いかけた。
(あの石段から先は私のテリトリーよ!)
(あっ!おばちゃん、ごめんなさい!)
(はっ?!あなた、今、何て言った?おねえちゃん、でしょ!?)
(はっ、はい…)
その子の返答の仕方にかなり無理があったから、益々私は気を悪くしたけど、まあ、こんな子ども相手にムキになるのはあまりにも大人げないから、私は大きく深呼吸して心を落ち着けてから、黒頭巾の彼女にこう言った。
(私はケイト。あなたが餌場にしてるナガサワさんの隣のカオルのうちで家猫やってるの。ナガサワさんがボヘミアンと呼んでるキジトラシロの妹よ)
私がそう言うと、クロズキンちゃんは少しポカンとしていたが、ハタと思い当たったように
(あっ、ボヘさんって、ホントはそんな、格好良い名前なんですね)
と驚いたように言った。
(そうなの。ボヘミアンは長くて呼びにくいからって省略されちゃって、ボヘ、ボヘ言われるのをお兄ちゃんは嫌がってるわ)
(そうなんですね。…でも、それだと何だか、彼だけ他の子達とテイストが違いますね)
(え?それって、どういうこと?)
(私はフネ。他にも、サダとかトクとかイネとか、ここのお庭の猫達は、あのご夫妻からはそんな風に呼ばれてるんです)
(ああ、それはね、お兄ちゃんの名前は奧さんが付けて、他の子の名前は旦那さんが付けたからよ。そこの奧さんは洋風好きで、旦那さんは和風好きなの)
こんな他愛ない話をしているうちに、私とフネは少しずつ打ち解けていった。私は、フネに野良猫の世界の常識と非常識、それから、庭猫をやっていく上で人間に排除されないための最低限の心得を彼女に教えてあげた。
(常にグルーミングを心がけて、いつも清潔な状態を保つこと。私達自身にも不快だけど、ノミやマダニを庭に持ち込むのを、人間はすごく嫌がるからね)
(はい)
(それから、何と言ってもトイレのマナーは重要ね。花壇を掘り起こすなんて論外だけど、一見花壇に見えなくても…つまり、今はお花が咲いてなくても、そこに種とか球根っていう植物の赤ちゃんが埋まってることがあるのよ。その場所を掘り起こしてをトイレにしちゃうと、それはそれは人間の怒ること、怒ること…)
私は、約2年前の放浪の記憶を蘇らせながら、フネにそう教えた。
(だから、基本、人間がよく行き来する場所では用は足さないこと)
(分かりました。気をつけます)
(それと、この界隈の、他の外猫達のことを、ザックリ教えておくわ)
(はい。よろしくお願いします)
(うちの家と道を隔てたお向かいのトヨダさん、そこにはハッピーという室内犬がいるんだけど、その犬の友達で半野良猫の茶トラの親子がいるの。この親子は、トヨダさんの奧さんからチャチャとコトラと呼ばれているわ)
 元々、チャチャは完全な野良猫だったんだけど、なぜか犬のハッピーと仲良しで、トヨダさんのお庭で子どもを産んだ。その中で、ちゃんと育ったのがコトラ。トヨダさんは、カオルの持っている罠を使ってチャチャと大人になったコトラを捕まえて避妊手術と去勢手術を受けさせたの。
(トヨダさんの奥さんは大のお料理好きで、いつも美味しい食べ物を沢山作るから、猫達にも無添加の食べ物を作って食べさせてくれるそうで、そうこうしている間に、チャチャとコトラは半分野良で半分家の猫になったんですって)
(へー、そうなんですか…)
フネは、この珍しい二匹の猫の経緯に、目をパチパチさせながらそう言った。
(それと、トヨダさんのお隣のヨシダさんのお庭で餌だけ貰っている黒と茶のブチ猫、これはサビコ。このサビコは長い間完全な野良猫だったんだけど、ヨシダさんとうちのカオルに捕まえられて、避妊手術を受けて、今ではこの棗坂の地域猫になってるの)
地域猫?)
フネが聞き返した。
地域猫って言うのは、どこか特定の家の猫ではないけれど、地域の人達皆にお世話をしてもらっている猫のことよ)
(へー、良いなぁ)
フネは、羨ましそうにそう言った。
(でも、その代わり避妊や去勢されちゃうけどね)
(あっ、そっか…)
(その他、色んな猫達の出入りが結構激しくて、私も全員を把握してる訳じゃないけど、雌猫のあなたが過ごす範囲の外猫といったら、まあそんなところかしらね)
(分かりました。ありがとうございます)
 本当は、ショウ君のことも紹介しようかどうかチョッピリ迷ったけど、若いフネにショウ君の心が動いたら悔しいから、完全家猫のショウ君のことには敢えて触れなかった。こんなこと気にするなんて、私も少し年をとったってことかしら?
 だけど、フネは素直で可愛いわ。そうやって、私達が、朝の短い時間を使って少しずつ親しくなった頃、丁度美味しそうな小鳥が木々に集まり始めた朝、お兄ちゃんが再び若い雌猫を連れて、ナガサワさんのお庭に現れた。



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2-1章


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2-1章

 9月のミニコンサートからほぼ半年が経過して、その間に、アートスペース 猫カフェマリエと私のお家の周りでは、色々な事が変わったわ。 まず一番大きな変化は、クリスマスイブの夜に、レイがマドンナのお家にもらわれて行ったこと。「本当に良いんですか?レイ君をうちの子にさせてもらって」その数週間前、閉店後にクリスマスツリーの飾り付けをするママに、箱から出したキラキラの丸い飾りを手渡しながら、マドンナは驚いたようにそう言った。「ええ、イズミさんさえ良ければ」ママはゆっくり頷いた。「この子はここ半年で急に体力が落ちたから、お店で他のお客様に接するのはすごく疲れるみたいなの。この頃殆ど一日中ソファーの下で寝ているし。でも、どんなにグッタリしていてもイズミさんが来たら、すぐに起きてあなたの傍に行くでしょう?余程あなたの事が好きなのよ」「ええ、それはもう、私も同じ気持ちですから、よく分かります」マドンナは、相思相愛の相手の事を言うように、足元で丸まって寝ているレイとママを交互に見ながら、少し頬を赤らめてそう言った。「きっと、この子はもうそんなに長くは生きられないと思うから、最終的にあなたの負担になるんじゃないかって、私も夫も心配ではあるんだけど…」「負担だなんて、そんな…。逆に、ありがたい限りです」マドンナはそう言うと、静かにしゃがみ込んで、赤ん坊のように、ゆっくりとレイを抱き上げた。「私、この子のお陰で、今の元気な自分があると思ってるんです。何て言っていいのか言葉が見つからないんですけど。…そう、レイ君の存在に心身ともに癒やされた、と言うか…。このお店に来て、レイ君を膝に乗せて寝ていると、不思議な力が自分の中に少しずつ湧き上がってくるのが分かったんです」マドンナは、テーブルの上のオレンジ色のランプの灯りに目をやって、当時の事を思い出しながら話を続けた。「癌が再発したって聞いた時、私、正直『もうダメた』って思ったんです。あの辛い治療にもう耐えられない、って。それで、何もかもがもうどうでも良くなってて…。そんな時にパン屋さんの前でレイ君と出会ったんです」マドンナは、いつか私達がレイから聞いたのと同じ、レイとの馴れ初めをママに語った。「科学的には、抗癌剤治療が功を奏したということになるんでしょうけど、私の中では、レイ君が私の病気を治してくれたと思っているんです。だから、今度は私が、最後までレイ君の傍にいてあげたいって…」マドンナは、真剣な眼差しでランプの灯りを見つめた。「こんな勝手なお願い、聞いてくださるなんて、ホントにありがとうございます。レイ君のこと、必ず最後まで見届けます。レイ君が私にしてくれたことのお返しに、今度は私が、精一杯大切にお世話します」マドンナは、優しくレイを抱きしめながらそう言った。 良かったわね、レイ。レイの思いはちゃんとマドンナに伝わってる。 レイの体はもうボロボロだけど、(俺は、自分の生まれてきた意味が今、ハッキリ分かるんだ。彼女を守るために、今回猫として俺はこの世に生まれてきた。それが分かった今が一番幸せだ)って、昨日彼は私達に話してくれた。 照れ屋で普段余り自分の事を話さないレイの言葉は、皆の心にじんわり染みた。(何だか淋しくなるわね)その後の段取りをママと話し合った後、店を出ていくマドンナの背中を見送りながら、ジャニスが言った。(そうね。だけどレイにとっては、こうなることが一番幸せなんだと思うわ)と、オルガはジャニスの鼻の上の輪っか模様に自分の鼻をそっとすり寄せながらそう言った。 そして当日、閉店後に中村君と一緒にマドンナは店にやって来た。(兄貴、達者でな)(幸せになってね)カーティスとジャニスがレイに言った。 私も含め、他の4匹の猫は、その他に何て言ったら良いのか分からず、黙ったままだった。…だけど、レイ以外の残りの猫は7匹だから…。(サリナは?)(あの子、ああ見えてすっごい淋しがり屋だから…。夕方からバックヤードに籠もって出て来ないんだよ)エリックが複雑な面持ちで、少し心配そうにそう言った。(入るわよ)5センチ程のドアの隙間を頭で押し開けて私がバックヤードに入ると、サリナは丸まって不貞寝していた。(さあ、皆でレイを笑顔で送り出してあげましょう。泣くのは後よ)(泣いてなんかいないわ)私の呼びかけに、ムッとした顔のままサリナは体を起こして皆の居る部屋に向かった。 サリナについて部屋に入ると、白いロングコートを着たマドンナは、肩まで伸びた髪をほどいていて、ブルーのショールで大事そうにくるんだレイを抱いていた。(わぁ、マドンナ、まるでその絵の中の人みたい)その姿を見た途端、思わず私の口をついて、その言葉が出てきた。クリスマスの飾りと一緒に玄関横の壁にこの季節だけ飾られるその絵の丁度真横に 、レイを抱いたマドンナは立っていた。(それは、聖母マリア…つまり本物のマドンナの肖像画よ)と、オルガは私に教えてくれた。(レイ、今まで色々ありがとう)(出会えて良かった。ホント、楽しかったよ)(これからもずっと、あなたらしくいてね)改めて、エリックとルチアーノとオルガも、それぞれの場所からそれぞれの言葉で、レイにお別れの挨拶をした。(ありがとう。みんな、元気でな)レイは、殆ど見えなくなった目で空を見て、それぞれの猫の存在を確かめるように、頷きながら一言一言を噛みしめていた。 こういう時、気の利いた言葉が浮かばず何も言えない私は、不貞腐れたままのサリナの方を見た。悲しい時、私みたいにシュンとするタイプと、サリナみたいに怒ったようになるタイプの猫がいる。それは人間もきっと同じね。(…あっちに行ったら、また、会いに来てくれるんでしょ?)しばらくして、不意にサリナがレイに向かってそう言った。 その言葉の意味を理解するのに少し間があったけど。…そうだ。そうよね、私達…。(その時は、あの音楽隊の人達も連れて来てよね)と、私があえてお茶目にそう言うと、他の猫達も、皆その事を思い出したみたい。(そうだね。その時は、オトウサンもきっと来てくれるよ)以前、ナカムラ君の演奏の時にやって来た、半透明の人達のことを思い出して、ルチアーノが嬉しそうにそう言った。「その時」を迎えるのは悲しいことだけど、レイは今の不自由な体から解き放たれて自由になれる。だけど今、レイは大好きな人の腕に抱かれて幸せだから、少しでも長く今の状態でいたいはず。 生きるって、全て上手くはいかないものね。何かを得ることは何かを失うこと。どんなに楽しい時間も、いつか必ず終わりがくる。だけど、その時その時を一生懸命、本当の自分に正直に生きていけば、いつでもそれなりに幸せでいられるのかもしれない。きっとそれも、人間も猫と同じね。(少しの間、お別れだ。皆、良い猫にしてるんだぜ)レイは、兄貴分らしい言葉を残して、店を後にした。レイを抱いたマドンナの後ろに、大きな紙袋を下げたナカムラ君が、そっと寄り添うように付き従っていた。 聖夜の空に、並んだ三つ星。あれはオリオン座のベルトの部分だと、丁度一年前の今頃、ショウ君に教えてもらったことを、不意に私は思い出していた。


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シーズン ツー スタートのお知らせ

 ながらくご愛読頂きました『棗坂猫物語』のシーズンツーが、6月4日よりスタートいたします。概ね週1回のペースで更新予定です。
 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 
登場人猫(犬)
ケイト雌のサバトラ白。元の飼い主を亡くし、放浪の末、薫の家の家猫になる。あざとく可愛いキャバ嬢気質。食べることが大好きなヒーリングキャット。お兄ちゃんキジトラ白の雄。ケイトの実の兄。人に飼われる事を好まず、半庭半野良猫生活を続ける。ショウ君雄の茶白の長毛(ノルウェージャンフォレストキャット)。薫の家の斜向かいの吉田家に住む。病気がちであまり外には出られないが、とても博学。ケイトの意中のヒト。サビコ雌のブチ猫。薫と吉田さんに避妊手術を受けさせられ、棗坂の地域猫となる。ケイトとは犬猿の仲だったが、避妊手術後は少し人間寄りな性格になる。カオル(黒住薫)棗坂に住む、ケイトの飼い主。ガーデニングが趣味の地味なアラフォー女性。サクラ(白川桜)薫の高校時代からの友人。占いとDIYの好きな、お洒落系大人女子。バツイチ。マスター(野口啓介)こだわりの店、アートスペース猫カフェマリエの店主。サクラの叔父。ママ(野口良枝)縁のあるものは何でも受け入れる、優しくて大らかなママ。20年前に亡くなった愛娘の名前をカフェにつけた。キョウヘイ(野口恭平)猫嫌いの陶芸家。マスターの甥でサクラの従兄弟。愛犬モカを溺愛するロックバンドのベーシスト。レイ雄のキジトラ。アートスペース猫カフェマリエに所属。無口だが頼れる親分気質。人間の女性(マドンナ)に恋をして、彼女の病気を治すために、ケイト達の指導の下、ヒーリングキャットとなる。カーティス左後ろ足だけ黒い、雄の白猫。ヒルで綺麗好き。人を引き寄せたり遠ざけたりするテレパシーキャット。ケイトに片思い中。エリック茶トラの雄。食べることが大好きで、太り気味。ヒーリングキャット。おっとりした気の良い猫。ジャニス雌の白黒。鼻の上に微妙にかかったり輪っか模様のブサカワ猫。チャームポイントの長い尻尾を使って、催眠術がかけられる。カワイイと言われる事が何より嬉しい。サリナブチの雌。人に触られるのが苦手なシャイガール。芸術家の表現力を刺激するインスピレーションキャット。オルガ雌のロシアンブルー。音楽家流山氏の元飼い猫。アートに詳しい優雅なマダム猫。ルチアーノ雄のペルシャ猫。黒で鼻の周りだけほんのり白い。オルガと共に死後の世界に元の飼い主を訪ねて行く。お茶目な性格。ナカムラ(中村)君市民交響楽団のバイオリニスト。故流山氏に師事しプロを目指していたが挫折。その後、音楽の本当の楽しさを知る。マドンナ(泉さん)元、中学の音楽教師。癌を患って仕事を辞め、実家の離れでピアノ教室を開く。レイのヒーリングによって回復する。ナガレヤマ(流山)先生中村君の師匠の高名な音楽家。三年前に脳梗塞で他界。あの世でも、オーケストラを率いて活躍中。キムラ(木村)さん桜の大学時代の友人。桜の占いを受けた後、保護猫ボランティア活動に参加する。タケヒサウタ(竹久うた)さん自称画家を目指すマリエのお客様。恭平とともに、二人展を開催する。メイ(芽衣)ちゃん占いを受けに来た、猫愛最強のお客様。看護師をしながら子育てに勉強に奔走中。ショウ君パパ・ママ(吉田夫妻)カオルの家の斜め前に住む、心優しき夫婦。ショウ君に、日常的な出来事を話しかけている。ナガサワさん(長澤夫妻)最初にケイトとお兄ちゃんに餌をくれた夫婦。面倒見が良い。ノザワ(野沢)さんマリエの常連さん。ケイトの大ファン。サトウ(佐藤)さんマリエの常連さん。ジャニスがお気に入り。モカ恭平の愛犬。ジャニスの催眠術で猫達と友達になる。恭平への忠誠心は半端ない。

 

 

あらすじ

    一緒に暮らしていたおばあさんが亡くなり、放浪の末、新たな同居人カオルと暮らしはじめた猫のケイト。猫を飼うのは初めての一人暮らしのカオルは、自分の留守中ケイトをどうしたら良いのか、秘かに悩んでいた。そんな時、ひょんなことから、カオルの友人サクラの叔父夫婦の経営する猫カフェ「マリエ」で、ケイトは占い師のアシスタント猫として働き始めることになる。そこで出会う覇気のない猫達と、猫や占いや店の雰囲気に惹かれて集まってきた人間達との間に、様々なドラマが繰り広げられる。   カオルの家の前を横切る急な坂道は、通称「棗坂」。マリエのある駅前商店街や駅にもその名前が付けられていて、この棗坂界隈が物語の舞台となる。   ケイトの秘かな思い猫ショウ君と、超ワイルドな野良猫サビコも棗坂の仲間。カオルのご近所さんやマリエの常連さん達の愛情を一身に受け、ケイトはあっと言う間に人気ナンバーワンキャットになる。   あざとく可愛い家猫ケイトは、人間を上手く利用して猫の願いを叶えるための巧みな方法をマリエの猫達に伝授するが、それと同時に、自分でも知らないうちに発揮してきた自身の「属性」を、他の猫から教えられる。   何かに迷い、何かを失い、何かに傷ついた人間と猫達が、その関わりの中で新たな生き方を見つけだす、魂の再生のストーリー。   1960年代以降のジャズやブルース、シャンソン、現代Jポップ、オペラやクラシック音楽等が、物語に更なる彩りを添える。   絵画や音楽等の芸術、占いを通じての人生相談、猫の夢とあの世との往来といった不可思議な世界と、猫からみると逆に不思議な人間の価値観やその日常を、ケイトのモノローグで綴るファンタジーストーリー。   ただ可愛いだけではない、猫の独自の視点から人間社会を俯瞰し、改めてその存在を見つめ直す、猫目線の長編小説。 猫の好きな方にも、そうでない方にも、楽しんでいただける物語を目指して執筆しています。ご一読いただけると幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

28章


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28章
「あの二人、どうしちゃったのかしら?」
ジャニスが心配そうに私の顔を見た。
「ちょっと、俺たちも様子を見に行こう」
カーティスも私を見てそう言った。 「そうね。だったら、急がないと…」
私達がママの後を追って裏口に回り込もうとすると、後ろからレイのか細い声がした。
「俺も…、俺も行っても良いか…?こんな体じゃ、かえって足手まといになるかもしれないけど…」
   すっかり痩せた体を起こして、レイは私達に言った。マドンナのヒーリングに力を使い果たして、彼は最近、殆ど横になったままで、目も相当悪くなっている。マドンナの事が心配なレイの気持ちはよく分かるわ。だけど、今は…。
   こういう時の決断は、私には無理。私はカーティスに視線を向けた。彼は、黙ってしばらく考えてから
「いいよ。来なよ。もし変な野良野郎が因縁付けて来たら、俺が何とかするからさ」
と毅然とした顔でそう言った。
「すまんな、相棒」
レイがヨロヨロと歩き出した。
「俺だって、外に出始めの頃は、何度もヤクザ者に絡まれてビビってたんだ。俺、ここに来るまでの野良歴、割と浅いからさ。でも、そのたんびに助けてもらってたんだからさ、こんな時ぐらい恩返しさせてくれよ、な、兄貴」
   話は決まった。捜索隊は私とレイとカーティスとジャニス。
「こっちは任せて」
そう言って、エリックが私達に大きく頷いた。
   オルガとルチアーノは、ピアノの鍵盤の上を歩き回って不思議な雰囲気の音を出したりして、余興さながら、お客さんの視線を一点に引きつけていた。
   サリナも、いつもの定位置から床の上に降りてきた。
   私達が一匹ずつ、こっそり厨房の奥に入って行くと、ママは既に外に出た後で、裏口の扉はキッチリと閉まっていた。ああ…、どうしよう?
  だけど、…そう。こういう時、一番話が分かるのは…。

「何よ?ケイトちゃん。こっちに何があるって言うの?」
   私はサクラを裏口のドア付近に誘導した。ドアの前にはジャニスとカーティスとレイが横一列に並んで、皆で一斉にサクラを凝視した。
「なっ、何?あんた達。どうしたの、こんな所で?」
サクラは私達のただならぬ雰囲気に、おののきながらそう言った。
「しかも、皆で並んで、そんな深刻な顔して…。一体、私に何が言いたいわけ?」
   そうよね。占い師と言っても、サクラは所詮普通の人間。私達猫の気持ちが分かるわけないか…。
   その時、レイが一歩進み出て、サクラの前でキッチリ座って、深々と頭を下げてこう言った。
(サクラ姐さん。俺達、どうしても、この演奏会を成功させたいんだ。ほんの少しの間だけ、俺達を信じて、外に出しちゃあくれないか?)
   サクラは、じっとレイを見た。そしてしばらく考えてから
「あなたもイズミさん達のことが心配なのよね?」
と呟いてから
「すぐ帰って来るのよ」
と言って、裏口のドアを開けた。

「二手に分かれよう。こっちは俺一人で大丈夫。ジャニスはレイの前に、ケイトは後ろに付いて。何かあったら、直ぐに大きな声で知らせるんだぜ」
「分かったわ」
カーティスの指示で、公園の前の道を東西に別れて探索は開始された。
「外って、こんな風なのね」
店から外に出るのが初めてのジャニスは、キョロキョロしながら、興奮気味にそう言った。
「マドンナの匂いがあちこちに残ってる。ナカムラ君も一緒だな」
唯一衰えていないレイの嗅覚を頼りに、私達は二人を探した。
   私達三匹が少し奥まった細い路地の前に差し掛かった時、額に大きな傷のある一匹の黒白の雄猫に遭遇した。
(お?タマナシシジイが女子達に囲まれて、随分良いご身分じゃねぇか…)
(なに?コイツ、ムカつく)
(相手にするな)
怯えながらも苛立つジャニスをレイは制して、私達はそいつに目を合わせないように下を向いたまま、そそくさとその場を通り過ぎようとしたが、その雄猫は、私達の後を付いてくる。嫌だ、あっち行ってよ!
(なあ?どっちか俺にもまわしてくれよ。…おっ、後ろのネエチャン、あんたべっぴんだな。それに良いケツしてんじゃねぇか)
  その雄猫は、そう言って、私のお尻に擦り寄って来た。
(やめてよ!マダニがうつるじゃないの!)
  反射的に、私はそいつの顔面にパンチを喰らわせた。
(何しやがるんだ!このアマ!)
(あんたこそ、何よ!断りもなくヒトのお尻に触んないでよ!)
(よせ!ケイト!)
(無理!コイツ、どうにもなんない!)
   そこに騒ぎを聞いたカーティスが駆けつけた。カーティスは、目を菱形に尖らせた般若の形相で
(俺の女に手ぇ出すんじゃねぇ!!)
と叫んだ。
(なんだ?他にもいたのか、タマなし野郎が。おまえら、ここが誰のシマか知っててここに居るんだろうな?)
(知らねぇよ!だけど、俺達急いでるんだ。お前に関わり合ってるヒマはねぇんだよ!)
(はぁ?そんな理屈がこのオレ様に通用すると思ってんのか?ここを通りたけりゃあ、その女を置いて行くか、俺を倒してからにしな!)
(そんな時間はホントはないが、それなら受けて立つしかねぇな!)
「グァーオォーン!!!」
「ギャアーオー!!!」
   二匹の雄は、互いに睨み合って、すさまじい鳴き声を出し合った。二匹の間隔はほぼ一メートル。どちらがやるかやられるかの一騎討ちになる。
   カーティスが負けたらどうしよう?それに野良は病気を色々持ってることも多いし…。怪我したらうつっちゃうかも。だけどこの状況。もう、誰にも止められないわ。
「ギャッ!!!」
お互いの輪郭線が交差して、激しい叫び声が聞こえた。それと同時に
「コラッ!!!」
という鋭い人間の声がして、二匹の間に透明のロケットの様な物体が飛んできた。 私達は皆、その衝撃に驚いて、散り散りに四方に逃げた。
   その透明のロケットは、ナカムラ君が投げた、飲みかけの水の入ったペットボトルだった。
「君達、どうしてここに?」
その場に駆けつけたナカムラ君は、しゃがんでペットボトルを拾いながらそう言った。あちこちに散らばった私達は、パラパラととナカムラ君の足元に集まった。
(チェッ、邪魔が入った)
そう言って、野良猫はどこかに去って行った。
(カーティス、大丈夫?)
   よく見ると、彼のピンク色の鼻先には、血の滲んだ引っ掻き傷が付いてる。
(俺がお見舞いしたカウンターパンチの方が、余程強烈だった筈だぜ)
と、カーティスは、前足で鼻を擦りながら、平静を装ってそう言った。
(だけど、血が出てるわ。感染症、大丈夫かしら…?)
(先月、五種混合ワクチン受けたばっかだから、平気っしょ?)
  まるで人間同士のような会話を交わす私達の後ろで、レイが
「ニャーン」
と、人間向けのかわいい声を出した。彼の視線の先には、マドンナがいた。
「レイ君、どうしてここに?…他の皆も」
マドンナは、フラつきながら彼女の足に擦り寄るレイを、愛しそうに抱き上げた。
   騒ぎを聞きつけて、私達と反対の方向からママもやって来た。
「二人とも、ここにいたのね。それに…、うちの子達?あら、ジャニスとケイトちゃんまで一緒なのね」
  ママは、マドンナとナカムラ君を交互に不思議そうな顔で見た。マドンナは、声を震わせて言った。
「私、本番に弱くって…。よく演奏前に手が震えちゃうんです。特に今回は、相当ブランクがあるんで、正直自信がないんです」
マドンナは、レイを抱きしめたまま、すがるような目でママにそう訴えた。
「折角のお店の初イベントが、私のせいで台無しになってしまったら、って考えると居たたまれなくて。…それに、…彼にも迷惑をかけてしまうし。私、こんな凄い人の伴奏が務まるような器じゃないって、今頃気付いてしまって…」
「イズミさん。…そんな…」
マドンナとナカムラ君は、困った顔をしたまま見つめ合った。ママは、そういうことかと納得した顔で、一旦大きく深呼吸した。そして、マドンナに向かってこう言った。
「大丈夫。どんなことでも、なるようになるわ。逆に、どんなことも、なるようにしかならない。これ、私が今までの人生から学んだ結論よ」
「なるように、なる…」
「そう、なるように。それに、随分練習したって言ってたじゃない?やるだけやったら、後は自分を信じて流れの中に飛び込めば良いの」
「流れに、飛び込む…」
「そう、そうすれば、頑張った自分が何とかしてくれる。後は、ケ・セラ・セラよ」
「ケ・セラ・セラ…」
マドンナは、ママの言った言葉を繰り返した。
   ん?この感じ…、何か身に覚えがあるかも…。…あっ!。
「ジャニス、そこの塀の上に登って!」
「え?」
咄嗟の私の言葉にポカンとするジャニス。
「早く!急いで。で、マドンナの目に届く位地で尻尾を振って!」
「え?え、え?…何?…しっぽ?…?あっ、そっか!」
  状況を察知するのに一瞬たじろいだ後、慌ててママの後ろにある塀の上に登ったジャニスを見て、レイが合図を送った。
「ニャーン」
  抱きかかえているレイの顔を覗き込んで、その視線の先にあるジャニスの左右に揺れる尻尾を見ながら、マドンナは
「ケ・セラ・セラ…ケ・セラ・セラ…ケ・セラ・セラ…」
と、繰り返し呟いた。そして
「そうね、ケ・セラ・セラ…。大丈夫、なるようになるわ!」
と、急に明るい弾んだ声でそう言った。
「店の方は準備万端よ。お客様ももうかなり集まってるから、裏口から中に入ってね。私はケーキのデコレーションの仕上げがまだだから、先に行っておくわね」
ママは、安心したようにマドンナににっこり微笑むと、小走りにその場を去って行った。
  ナカムラ君がマドンナに言った。
「ケ・セラ・セラというスペイン語には、実はもう一つ意味があるそうですね。僕はそっちの方が好きです」
「へえ、そうなの?私、知らないわ。教えて」
  さっきまでとはうって変わってリラックスした雰囲気のマドンナにちょっぴり驚きながら、ナカムラ君は嬉しそうに言った。
「ケ・セラ・セラ。人生は自分次第」
「人生は、…自分次第?」
「そう、自分次第。思った通り、どんな風にでもなる、という意味です。とにかく今夜は、誰よりも、僕達が楽しみましょう」
ナカムラ君はマドンナに優しく微笑んだ。
「そうね、そうでなくっちゃね」
マドンナも、いたずらっぽい笑顔で答えた。

(何よ、さっきの“俺の女に手を出すな”って)
お店に帰るまでの道すがら、ジャニスがからかうようにカーティスに言った。
(あれ、格好良かっただろ?俺、ああいうの一ぺんやってみたかったんだ)
カーティスはおどけたようにそう答えながら、横目でニンマリと私を見た。
  その視線に気付かないふりをしながら小さく苦笑する私の気配を察して、レイはマドンナの胸に抱かれたままこちらを見下ろしながら、全てを悟ったような声で
「ナーォン」
と低く鳴いた。

  ステージは、予定通りに始まった。お客様は総勢30人くらい。いつもの常連さんやメイちゃん夫妻を始め、商店街の魚屋のご夫婦やお花屋のお姉さん、サクラの友達らしき年代の女の人やキョウヘイの師匠と思われる作務衣姿の人もいた。
  バックヤードで着替えを済ませたマドンナは、所々に小さなキラキラをちりばめた薄い生地のベージュ色のシンプルで上品なドレスに身を包んでいた。露出した肩の白さが薄いドレスの色と調和して、ちょっぴりセクシー。猫の私が言うのも何だけと、こんな風に正装した女性がいると、場の空気は各段に揚がる。
  ナ カムラ君も、いつもより濃い黒のズボンをはいていて、私の首飾りとよく似た黒い一重の蝶々型のネクタイを着けていた。
   二人は無言で現れて、定位置についた。そして、演奏が始まった。
(これは、何ていう曲なの?)
私はオルガにきいた。
(これは …。何かしら?私、聴いたことないわ  )
(僕も知らない。何だか軽やかだけど切ないメロディーだね)
  珍しく、オルガもルチアーノも知らないその曲は、マドンナのピアノ伴奏に合わせて、ナカムラ君のバイオリンがメロディーを奏でた。ルチアーノのコメント通り、軽やかだけどちょっと切ない、だけど少し楽しい雰囲気のその曲に、私達は聴き惚れた。メイちゃんやキムラさんや他の若い数人のお客様は、サビの部分で所々歌詞を口ずさんだりしていた。
  一曲目が終わって、お客様は皆、盛大な拍手を送った。ナカムラ君が、おもむろに喋り始めた。
「皆様、こんばんは。 私達、キサナドゥと申します。我々は、このお店で知り合って、ひょんな事から音楽ユニットを結成することになり、本日初めて、皆様に演奏を披露させていただいています。先ず一曲目にお聴きいただいた曲は、2020年にヒットした『猫』という曲です」
「この曲、私、好きよ」
  サクラがナカムラ君のトークに答える形で、場の雰囲気が一気に和んだ。
   なるほど。そういう流行の曲なのね。クラシック畑のオルガとルチアーノが知らないのも無理ないわ。
「このお店は、皆様ご承知の通り猫カフェですが、よくよく考えてみると、お店専属の猫さん7匹のお名前は、それぞれ色んなジャンルのミュージシャンのファーストネームが付いていることに、僕達、ある時気付いたんです」
「へぇー、そうなんだ」
  今度は、キョウヘイがマスターの方を見ながら言った。
「そうそう。知る人ぞ知るアーティスト名。さすが音楽家だ。よく気付いたね」
  マスターの言葉に、皆、それぞれ驚きのリアクションを示した。そうなんだ。私達猫も知らなかったわ、そんなこと。
「そこで今夜は、猫さん達がお名前を冠するそれぞれのアーティストの代表的な曲を、ピアノとバイオリンで、前半は少しジャズ風にアレンジして皆様にお届けしたいと思います。このお店は本来猫カフェですし、これは改まった演奏会ではありませんので、皆様、曲の途中もご自由に飲食やお喋りをお楽しみください」
  ナカムラ君は、慣れた調子でお喋りを続けた。
「次は、サリナ・ジョーンズの『ナイト アンド デイ』と、ジャニス・ジョップリンの『クライ ベイビー』という曲をやります。サリナ・ジョーンズジャニス・ジョップリンも、20世紀中旬に活躍したアメリカのアーティストで、サリナはジャズ、ジャニスはロックシンガーです」
  サリナとジャニスの瞳が輝いた。
「サリナやジャニスの事をご存じない方でも、曲はどこかで聴いたことがあるかもしれません。それでは、『ナイト アンド デイ』と『クライ ベイビー』。2曲続けて、どうぞ」
  ナカムラ君の流暢なトークに続けて、軽やかなピアノ演奏が始まった。自然に体を揺らしたくなるような軽快なリズム、これがジャズ風ってヤツ?先ずはピアノだけの演奏で、後半からはバイオリンがメロディーを奏で始めた。いつの間にかサリナはいつもの定位置に登って、皆を見渡しながら、すっかりご満悦。
   続いて曲調が変わると、今度は曲の頭から、バイオリンが朗々と歌い始めた。ハハン、これがジャニスの曲ね。ゆったりとした、だけどなかなかカッコイイ曲。『クライ ベイビー』ってタイトル、どういう意味かしら?ジャニスも、得意そうに、今やすっかりチャームポイントとなった自慢の尻尾でリズムを取っていた。
   演奏が終わると再び大きな拍手が起こった。
「ありがとうございます」
   ナカムラ君は、いつもより血色の良くなった顔で、嬉しそうにそう言った。マドンナもすっかりリラックスした余裕の表情でナカムラ君の方を見て微笑んでいた。
  その次の曲は、カーティス・メンフィールドの『ピープル  ゲット  レディ』とエリック・クラプトンの『ティアーズ  イン  へヴン』だと、ナカムラ君は解説した。
   カーティスの曲は、ゆったとしていた。この曲も前半はピアノソロ、後半はバイオリンが旋律を奏でた。穏やかだけどちょっと切ないそのメロディーを聴いていると、なぜだか見知らぬ街を一匹で旅しているカーティスの姿が思い浮かんで何だか淋しくなっちゃった。横目でチラリと彼を見たら、バッチリ目が合った。でも、いつものふざけた仕草で私にウインクする彼を見たら、現実に戻ってちょっとホッとした。
  その後の曲は、前の曲と少し調子が似ていた。これはエリックの曲。確か、以前、マスターがとても心動かされたとかいう一曲。…そう思ってマスターの方を振り返ったら、マスターは天井を見上げていた。ずーっとそのままの姿勢でその曲を聴いてたけど、途中でバイオリンが入ってきたら、目を押さえたまま厨房の奥に消えていった。エリックは優しい顔をして、マスターの後ろ姿を見送っていた。
  曲が終わると、また大きな拍手。
「次で前半最後の曲です。レイ・チャールズの『アイ キャント ストップ ラヴイング ユー』日本名で『愛さずにいられない』というこの曲は、昔からCM等にもよく使われている曲ですので、皆様のお耳にも馴染みがあるのではないかと思います。レイチャールズはピアノ奏者なので、今回はピアノのソロ演奏でお届けしたいと思います」
そう言って、ナカムラ君は、ピアノから離れた壁際に立った。
  マドンナのピアノがムーディーなメロディーを奏で始めた。大人っぽい雰囲気がレイによく似合う曲。それに、何だかものすごく懐かしい気持ちにさせられるメロディーだわ。レイは、目を閉じてジッとマドンナの奏でるピアノを聴いていた。マドンナのピアノはレイの静かで熱い想いを知っているかように、切ない音色で歌った。
  曲が終わると大きな拍手。
「ありがとうございました」
マドンナが、満足げな表情でそう挨拶した。
「これからしばらく休憩に入らせていただきます」
と言うナカムラ君のアナウンスで、皆席を立ったり食べ物のオーダーを取ったり、店の中は賑やかになった。
 
  そして、しばらくその賑やかな時間が続いた後、急に店内の灯りが消えた。
「えっ?停電?」
ザワつく店内に、ナカムラ君のアナウンスが響いた。
「皆様、突然で申し訳ございません。実は、この中に、本日お誕生日のお客様がおられます。この機会にこうして集まれたのも何かのご縁ですので、これから皆でお祝いいたしましょう」
  暗い店内でピアノがBGMを奏でる中、厨房から蝋燭の灯りに照らされた大きな四角いケーキがサクラによって運ばれてきた。
「ディア、 メイちゃん…で良いかしら?」
  ケーキを目の前に置かれたメイちゃんは、びっくりして両手で顔を覆っていた。
  ピアノとバイオリンがバースデーソングを奏で始めた。
「ハッピー バースデー  トゥー  ユー…」
一斉に合唱が始まった。歌が終わるとメイちゃんが、一気に蝋燭の火を吹き消して大きな拍手が起こって、店中は再び明るくなった。
「何で今日が私の誕生日だって…?」
  メイちゃんが驚きと喜びの交じったままの顔でサクラに聞いた。
「カード占いの前に、星座も聞いたじゃない?あと一日早かったら乙女座だったのにって言ってたから、記憶に残ってたの」
サクラが得意げにそう言った。
   大きなケーキは、皆に均等に切り分けられ、私達猫には、キョウヘイがコンビニで買ってきた、缶に入ったキャットフードを8等分したものが配られた。
(ほんのチョッピリ)
不満そうな私に
(幸せのおすそ分けは、それだけで美味しいものなのよ)
と、オルガが言った。

  そして、後半の演奏が始まった。
「後半の演奏は、よりクラシカルなムードになります。と言いますのも、オルガとルチアーノという2匹の猫さん、彼らと私は古くからのおつきあいなのですが…、この子達の今の名前は、高名なオペラ歌手のオルガ・ペレチャッコとルチアーノ・パバロッティに由来しているからです」
  ナカムラ君は、さすがクラシック音楽が専門とあって、その二人のオペラ歌手の事を、詳しく話し出した。
「ペレチャッコはオペラ界きっての美貌で、パバロッティは、世界三大テノールとして名高い人物です。…彼らの事を語り出すと、話しは尽きませんが、私のお喋りはこのへんで…。次の曲はモーツァルト作曲の『ハレルヤ』。続けて、オペラ『トゥーランドット』より『誰も寝てはならぬ』をお届けします。どちらも有名ですので、皆様お馴染みの曲かと思います。特に後の方は、トリノ    オリンピックの時に有名になりました」
イナバウアーね」
客席から、朝の常連サトウさんが、ご贔屓のジャニスを膝の上に乗せて喉を撫でながら言った。ジャニスは、気持ち良さそうに体を大きく後ろに仰け反っていた。
「その通りです」
ナカムラ君が、サトウさんとジャニスにそう言って、楽しそうに頷いた。
「それでは、二曲続けて…」
  ピアノの軽やかな伴奏に合わせてバイオリンが旋律を奏でた。規則正しいリズムで指の動きが忙しそうな曲を、二人は濁りのない音で演奏していた。
  確かに前半の曲とはムードが違うわ。ナカムラ君の表情も心なしかさっきより凛として見える。クラシカルなムードって、そういうの?
  オルガは、さっきナカムラ君の言った「オペラ界きっての美貌」という言葉がいたく気に入った様子で、しなやかな動きで客席をゆったりと歩いた。
「これはあなたの曲ですってよ」
そう言って喉を撫でてくれたタケヒサウタさんに
(そうなの。素敵でしょ?)
とオルガは高く澄みきった声で応えた。
   しばらしてまた曲が変わった。今度は静かに始まって、途中からバイオリンの音が、どこまで広がるのかと思うくらい伸びやかに歌いだした。まるで、人が歌っているみたい。
「ああ、この曲ね」
お客様の何人かが、そうつぶやきながら、それぞれに首を小刻みに振ってリズムを取ったり、目を閉じてメロディーに身を委ねていた。
   ルチアーノも、フサフサのシッポをゆったりと八の字に振りながら、気持ち良さそうにタクトをとっていた。
  曲が終わると、益々大きな拍手が響いた。後半になると、お客様の気持ちもノッてきて、皆の一体感がより増している感じ。気のせいかもしれないけど、私にはそんな風に感じられる。
「こんなに気持ち良く演奏させていただいて、皆様、本当にありがとうございます」
ナカムラ君は、頬を紅潮させてそう言った。
「このお店の専属猫さん達のテーマソングは以上ですが、もうお一方、大切な猫さんが残っていますね」
  ナカムラ君が私の方を見た。
「ケイトちゃんがこのお店でパート勤務をするようになって、お店の雰囲気がガラリと変わったと、以前マスターからお聴きしました」
  ナカムラ君の軽妙なトークに、軽い笑いがあちこちで起こった。
「飼い主さんにお伺いしたところ、ケイトちゃんの名前の由来に、特にモデルはいないそうです」
「そうなの?」
と尋ねるサクラに
「ええ、何となく。Kで始まる名前を付けたかっただけなの」
と、カオルが小声で答えた。
   何で?不思議な人。単に4Kしたいが為に付けた名前なのかしら?
「そこで、色々考えて、曲を決めました」
  どんな曲かしら?ワクワク。
「1997年に上映された映画、『タイタニック』のヒロインが、ケイト・ウィンスレットという女優さんで、私の父がこの人のファンでしたので、そこからこの曲をセレクトしました。この映画は、長い間記録を更新されない大ヒット映画だったようです。沈没する大型客船タイタニックを舞台に繰り広げられる悲しくも美しいラブストーリーをご覧になった方も多いのではないでしょうか」
「私、3回映画館で観たわ」
キムラさんが呟くのが聞こえた。
「それではお聴きください」
   曲は、ピアノとバイオリンの切ない調べで始まった。何てドラマティックな曲。これが私のテーマソングなのね。悲しくも美しいラブストーリーのヒロインになった気分で、胸がキュンとしちゃうわ。ああ、ショウ君にも、この曲聴かせてあげたいな。
  ロマンティックな調べにうっとり聴き惚れている私の頭を、傍にいたノザワさんが優しく撫でながら
「ケイトちゃん、良かったね」
と言ってくれた。
  そうね。このお店に来ることができて、色んな猫や人に出会えて、色々な経験ができて、私、ホントに良かったわ。これからも、この、アートスペース猫カフェマリエがどんな風に進化していくか、楽しみだし。
   曲が終わると、また大きな拍手。
「ありがとうございました」
  満足そうに、ナカムラ君が言った。
「今日は、皆様のおかげで本当に素晴らしい演奏会になりました。しかし、楽しい時間も終わりが近づいて参りました。次の曲で最後になります」
   何だか名残惜し感じの、「えー」と言う皆の声を聞きながら、ナカムラ君は話を続けた。
「以前、このお店で初めてバイオリンを演奏させて頂いた時、スラブ風の曲を弾いたら、猫さん達がとても喜んでくれました。スラブ風楽曲というのは 、旧ソ連から東欧に古くから住む諸民族からなるスラブ人の伝統音楽の要素を含むもので、 ゆったりとした哀愁の部分からテンポの早い明るい部分への急激な転換を特徴とする場合が多いのですが 、今宵最後にお届けするのは、『チャルダッシュ  』というスラブ風音楽です。この『チャルダッシュ』はヴィットーリオ・モンティというイタリアの作曲家による19世紀 の音楽で、当時はウィーンを始めとしてヨーロッパ全土で大流行したそうです。       
   皆様、本日は、私達キサナドゥの演奏に最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。それでは、『チャルダッシュ』お聴きください」
   そして、ドラマティックなピアノの歌い出しで、演奏が始まった。
  バイオリンが入る部分からは、前の『ツィゴイネル…』何とかの時みたいに、何とも物悲しい。私は、カオルの家に来る前にお兄ちゃんと一緒にさすらっていた頃の事を思い出した。あの頃冷たい雨に濡れて風邪をひきそうになったこともあるし、路上を走る車の前で立ち止まってクラクションをガンガン鳴らされたこともあったわ。あの時、車にひかれてたら、今の暮らしは無かったのね。大変だった私の放浪時代。…あら、何で今、こんなこと思い出すのかしら?このスラブ風…というヤツは、どうも私を感傷的にさせる。
   そうやって、しんみりしている私の隣に、気づいたらルチアーノが来ていた。私の方を見てニンマリ笑っていて、フサフサの尻尾はフワフワ波打っている。このヒト、何か企んでるわね。
   私がそう思った瞬間、曲調がガラリと変わった。何?これ?…ほら、あの、アメリカのアニメで猫とネズミが追っかけっこするアレ…みたいな。そんな曲を聴きながら、ルチアーノが目の前を走り去ったら、やっぱりここは追いかけるしかないわよね。お客様達の足元をうまくすり抜けて走る、ルチアーノと私の追いかけっこに、ジャニスとカーティスも加わった。
「わっ、猫の運動会が始まったぞ!」
お客様の誰かがそう言った。沢山の机と椅子と人間の脚を瞬時に上手く避けながら私達は疾走した。中には、脚を椅子の脚の横木に乗せて浮かせることで、私達のステージを少しでも広げようとして下さる気の利いたお客様もいらした。意外に俊敏なルチアーノを追いかけながらチラリとナカムラ君の方に目をやると、彼の指とバイオリンの弓は、物凄い素早さで緻密な動きをしながら音を繰り出していた。この人凄いわ。これって、超絶技巧ね。…よく分からないけど、きっと、お客様達も皆、そう思ってるんじゃないかしら?
   そんな機敏な音楽と猫達の掛け合いの中に、間の悪いタイミングで出し抜けに客席の様子を見に厨房からカオルが現れたもんだから、私は踏まれないように急停止した。この人は本当に鈍くさくって、日頃家の中でも普通に歩きながら、足元を歩く私をしょっちゅう踏みそうになる。たまにホントに踏んづけて、ギャッ!て叫ぶ私に謝りながら
猫踏んじゃった
なんて、カオルは吞気に歌っているけれど、自分の体の半分以上ある大きな足で踏まれるのは、例えスリッパでも結構痛いのよ。しかも、今日は皮靴を履いているんだから、こんなのに踏まれたらたまらないわ。だけど、あまりのスピードで走ってたものだから、私の体は床の上でスリップした。するとタイミング良く、また曲は調子を変えて、急に穏やかになったから、私は床の上に体を投げ出して寝転がった。
(ああ、疲れた。ちょっと休憩)
優しいムードの曲の展開にゆったりと身を委ねてしどけなく横たわる私の顔を、さっき外で見せた表情とは打って変わって優しい目をしたカーティスが覗き込んできた。
(カーティス、さっきは助けてくれてありがとう)
(どう?惚れ直しただろ?)
カーティスは、いつものようにおどけてそう言った。
(え?)
  いや、別に、そういうんじゃないんだけど…とも言えずに口ごもる私に
(…って、まだ惚れてないか…)
と、自分に正しい突っ込みを入れながら、カーティスは、囁くようなピアノとバイオリンの音に合わせて尚も優しい目で私を見つめ続けた。
(ねぇ、ケイト。鼻チューして良い?)
(え?鼻チュー?いっ、良いけど…)
   鼻チューは、猫は挨拶替わりにしょっちゅうしている。よく朝のお散歩の時、ヨシダさんのお庭でショウ君ママに会ったら、
「ケイトちゃん、はい、鼻チュー」
と指をかざしてくるから、人間とは鼻と指ですることもある。でも、カーティスにそうやって改まって言われると、何だか照れるわね。
(ケイト、好きだよ)
そう言って、カーティスは私にゆっくり顔を近づけてきた。カーティスと鼻チュー、…まあ、良いか。
   と思った次の瞬間、またしても急に曲調が変わった。今度も、さっきと同じ激しいテンポ。
(やっぱ、今はダ~メ)
そう言って身を翻して走り出した私を
(待て~、ケイト!)
と、カーティスが嬉しそうに追いかけて来て、再び猫達の競演が始まった。曲は、途中から更に明るい雰囲気に転調し、他の猫達も皆、踊りの輪の中に加わった。サリナも床に降りてきて、目の悪いレイも、床に広がったマドンナのドレスの裾の上で、ゴロゴロ転げ回っていた。
   ナカムラ君のバイオリンは益々調子を上げて、そこにお客様達の手拍子も加わって、店内は古いヨーロッパ映画に出てくる酒場の様な熱気に包まれた。
   そして、最高潮に盛り上がった瞬間、バイオリンは長く三つの音を奏でて歌い終わり、ピアノは全ての音をきらめくように奏でて幕を終えた。
「ブラボー!!!」
  マスターの掛け声とほぼ同時に魚屋のご主人も立ち上がって、皆で一斉に今までで一番大きな拍手をした。店内の30人ほどのお客様はその倍くらいいそうな大きな拍手を二人にいつまでも送り続け、それはやがて、前にナカムラ君が一人で演奏した時と同じようにアンコールの掛け声に変わっていった。
   しばらくアンコールが続いた後、今度はマドンナがピアノの前の椅子から立ち上がって皆の方に体を向けて話し始めた。
「皆様、今夜は本当に素晴らしい機会を私達に与えてくださってありがとうございました。この場を提供してくださったこのお店のマスターとママ、それから、細々とした準備してくださったサクラさんとキョウヘイさん、そして、裏方をお手伝いくださった皆さん、また、お集まりいただいた全てのお客様、皆様、本当にありがとうございました。今夜、こうしてこのお店で演奏できたことを本当に嬉しく思っています」
  皆の温かい拍手が広かった。
「それから、他にもお礼を言わなければいけないのは、このお店の猫ちゃん達。皆、本当にありがとう」
そう言うと、マドンナはしゃがみ込んで彼女の直ぐ傍で丸まっているレイを抱き上げ
「レイ君、ホントにありがとうね」
とレイの額に自分の額をこすりつけた。
   レイを抱いたまま、マドンナは皆に話し続けた。
「私、ここに来るまで、心身ともに相当弱ってて、だけど、このお店で猫達に救われました、本当に。それで、元気になれたお礼の意味もあり、今夜、こうして皆様に私達の音楽を聴いていただきました」
「よかったわね!今日のあなた、とっても素敵よ」
魚屋の奧さんが、良いタイミングで声をかけて、再び温かな拍手が起こった。
「アンコール、本当は別の曲を準備していたのですが、ここに来る前、ちょっとしたハプニングが起こり、それで、こっちの曲にしようかなあって、急に予定を変えちゃいました」
マドンナは、お茶目な笑顔でナカムラ君の顔を見た。ナカムラ君は無言で頷いた。
「さっき、バックヤードで、ミニキーボードで1回練習しただけなので、上手く弾けるかどうか分からないのですが、それも含めて、この曲は今の私に、そして、このお店に、またこれから起こるこのお店の物語にぴったりじゃないかと思うんです。皆様、ご存じの方はご一緒にご唱和ください。本日は本当にありがとうございました」
   タイトルを言わないまま、マドンナはピアノの前の椅子に戻り、前奏を奏で始めた。旋律はナカムラ君のバイオリンがソフトに歌う。
  あら、この曲は…。
  三拍子の曲は、四本脚の猫には踊りにくい。さっき散々かけずり回ったから、ちょっと休憩しよっと。客席と厨房の行き来が一段落して、客席に戻ったカオルの膝の上の私は上った。
「あら、ケイト、自分から膝に来るなんて珍しいわね」
そう言いながら、カオルは空になったコーヒーカップの中を見て
「あら、この絵、ケイトね」
と言った。
  キョウヘイ、私の絵柄のカップもいつの間にか作っててくれたのね。改めて、この店の猫の仲間になれて良かったと、その幸せを噛みしめながら、私はカオルの膝の上でゴロゴロ喉を鳴らしながら目を閉じた。
   マドンナがアンコールのために急遽選んだ三拍子の曲は、年配のお客様には馴染みがあるみたい。サビの部分の歌詞を、佐藤さんと魚屋の奧さんが気持ち良さそうに歌っている。
「ケ・セラ・セラ 
成るようになるわ 
先のことなど 分からない」
  お花屋さんのお姉さんは、日本語っぽくない言葉で歌っている。
「Que sera, sera
Whatever will be, will be
The future's not ours to see
Que sera, sera
What will be, will be
Que Sera, Sera」
「分からない  分からない
ケ・セラ・セラ」

 

 

 

『棗坂猫物語』シーズンワン (完)


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